菌糸詰め作業の時間短縮とスペースの都合上、一部のオオクワガタとヒラタクワガタはコバエシャッターでの多頭飼育を遂行しています。
中ケースには6頭、大ケースには10頭を目安に管理しているのですが、菌糸瓶で単独管理した群と比較するといくつか興味深い発見がありました。
まず、菌糸ケースの作成段階からですが、10cm以上の高さのケースでは菌糸を固詰めすると底まで酸素が行き届きにくくなります。コバエシャッターの小ケースぐらいであればぐらいであれば問題なく巡りますが、中ケースや大ケースに8分目ぐらいまで入れるとなるとムラが出てきます。
結果的には時間をかけてじっくり巡らせると遜色なく白くなる場合が多いのですが、今回の話題はこの時点で焦ってしまったことが発端となっています。
800ccの菌糸瓶であれば2日(3日目)で真っ白になる菌糸をコバエシャッター中ケースに固詰めしました。
もちろん、空気穴は必要と考え、直径7mmほどで深さ10cmの空気穴を9箇所に開けたのですが、1週間経っても底が白くなりませんでした。
焦ってしまった私は、アルコール消毒した鉄棒で追加の空気孔を設けてしまったのです。
異変に気付いたのはその2日後。
菌糸がうまく巡らなかった底にアオカビが発生し、菌糸エリアとアオカビエリアが同居するケースになってしまいました。
同時期に作っていたケースは2つ、共に同じです。
時期的には800ccの菌糸詰めも終わり、第二弾の産卵ケースを割り出す前だったので、既存の幼虫達はボトルに投入し、この2つの問題児は出番のないまま2ヶ月ほど放置しておりました。
想定よりも取れ過ぎてしまったホンドヒラタクワガタをこのケースに投入したのが6月8日のこと。
正直、出番を失っていた問題ケースの処理のためでした。
投入1週間ほど経った頃、ヒラタクワガタの幼虫達は菌糸エリアとアオカビエリア(アオカビが経時変化で黒化した部分)の境界に群がって生息していました。
しかもアオカビエリアの中央に陣取った幼虫が最も成長しており、菌糸エリアに寄るにしたがって小ぶりでした。
ここで本題に入る前にまず幼虫達の主食である木材の組成について見てみましょう。
木材はおおよそセルロース、ヘミセルロース、リグニンを主成分として形成されています。
これらの成分は、セルロースを骨に例えると、ヘミセルロースは腱、リグニンは身のような役割をしています。
木材の断面が褐色に見えるのはこのリグニンによるもので、広葉樹、針葉樹に限らず成り立ちは同じだと言えます。
少し興味深いのが、古生代の石炭紀末期まで地球上にはリグニンを分解できる生物が生息していなかったということです。
この時期の森林の化石が現在では石炭として使用されていますが、ある時の地層から炭素貯蔵量が激減します。
この原因は言うまでもなくリグニンを分解できる生物の出現によるもので、彼らは白色腐朽菌と呼ばれます。
よく知られているところではシイタケ、マイタケなど。クワガタムシの世界ではヒラタケ、カワラタケ、ニクウスバタケなどが該当します。
クワガタの幼虫達はこの白色腐朽菌が分解した産物を栄養として吸収することで間接的に木材を消化しているのです。
さて、添加剤等で活性化した白色腐朽菌(に分解された木材)を全てのクワガタが食べられるかといえばそうではありません。
うまく消化できない彼らは”食が細い”と形容されますが同種族間でもその優劣には個体差があります。
現在、菌糸を用いるクワガタの飼育法としては同様に製造した菌糸瓶に個々に幼虫を投入するというのが主流です。
そうなれば自ずと食が細い幼虫は成長期に充分成長することが出来ません。
ある程度幼虫が大きくなれば高添加な菌糸でも食べられることが多いため、まずはこの初齢〜3齢初期までの期間をいかに過ごしてもらうかにかかっています。
ですが、数百頭のブリードをしていて添加割合や種菌の種類を変えた菌糸をそれぞれに用意することはなかなか難しいです。
であれば、培地の環境にムラがある状態で幼虫達に食べたい部分に移動してもらって管理するというのが的確ではないでしょうか?
前述の菌糸エリアとアオカビエリアのように人為的に分けることが出来れば、初齢〜3齢初期の期間にあたる菌糸瓶1本目をケースで多頭飼いということも理にかなっているのかもしれません。